
ある日から、メロウキッチンで不思議なことが起こり始めた。
確かに置いておいたはずの物が消えた。丹精込めて作った料理が台無しになった。
メイプルは戸惑い、自然と疑いの目はマフィンへと向けられた。マフィンは悔しかったが、犯人は別にいた。
人形星に帰れず、境界にとどまる人形たち。
持ち主に捨てられて心がねじれてしまった子たちだった。引っ越しのときに置き去りにされた人形、双子なのに一体だけ捨てられた人形、そして、わざと捨てられた人形。
傷の深さはそれぞれ違っても、人形星に帰れず境界をさまよう身であることは同じだった。
マフィンの目には、彼らは悪意ある邪魔者に映った。
メイプルにマフィンをいたずらっ子だと誤解させ、二人の信頼を壊そうとしているように見えた。マフィンは腹が立った。
メイプルと積み重ねていく時間が大切であればあるほど、それを邪魔する者たちのことが理解できなかった。
ところがある日、その中の一体がマフィンに直接話しかけてきた。
あんた…捨てられるってどんなに痛いことか分かってる? 目を覚ましなよ、マフィン。このままじゃ、泡みたいに永遠に消えてしまうかもしれないよ。
邪魔ではなかった。
この人形たちの目的は、最初からマフィンを壊すことではなかった。
メイプルにマフィンを嫌わせて、無理にでもマフィンを人形星へ帰そうとしていたのだ。消えてしまう前に。まだ間に合ううちに。
捨てられることがどんなに痛いか、彼らは誰よりもよく知っていた。だからこそ必死だったのだ。
その誤解が解けたのは、メイプルのお店でだった。
捨てられた人形たちのかつての持ち主は、ある日メロウキッチンを訪れたお客さんたちだった。
メイプルが出してくれた料理と、交わされた会話の中で、人形たちが捨てられたと思い込んでいたあの日の真実が一つずつ明らかになった。やむを得ない事情があった。
捨てたわけではなかった。ただ、幼い心が耐えきれなかった誤解だったのだ。
そして、どんな状況でも互いを先に思いやるメイプルとマフィンの姿を見守りながら、捨てられた人形たちは静かに二人の味方になることを決めた。
マフィンはその一連の出来事を通して、初めて自分の消滅と正面から向き合った。
怖くないと言えば嘘になる。けれどマフィンは思った。
たとえいつか消えてしまうとしても、今メイプルのそばで心を尽くすこと。それだけは後悔しないでいられる、と。
その決意は、あの日以来揺らぐことはなかった。


